2016.12.14

週刊 汽車道楽 平成28年12月11日号(2)

◇「魚介加工場」のその後

「クラム・ベイ Part 6」の核になる、ファイン・スケール社の「エンポリュウム・シーフード・カンパニー」の進行を中心に廻った1週間でした。

「懸命に取り組んだ」というわけでもなかったのですが、突然暇になってしまって「まあ、これでもやっているのが一番人畜無害か」と…

結果、地上建造物の作業の90数%は終わった、という感じです。このキットはジョージ・セリオスのプロデュースによるものとしては珍しく、水上部として桟橋があり、それを含めた全体の作業量では70%程度ですが…

今回はさすがに歯応えのあるキットでしたね。「クラム・ベイ」全編を通して、「Part 2」での造船所と双璧でしたろうか?

最初は、写真で一目見ても構造が頭に入らないほど複雑な外観と箱に目一杯詰まった膨大な数の部材に呆然とし、それが、組んでいくうちに、効果的な演出となって各所に現れてくると、オーナー・デザイナー、ジョージ・セリオスのペースにすっかり嵌まってしまう。

世界のあらゆる種類の鉄道模型キットで、ファイン・スケール社の製品は、物価スライド以上に値上がりして、しかも長期に値崩れしない唯一の例ではないか、と思うのですが、そのカリスマ性は、やはり「見せ場を作る上手さ」ゆえなのでしょうね。

ファイン・スケール社のキットは、すっかり当今の木製ストラクチャーの標準となった「レーザー・カット」タイプと違って、自分で現物に合わせて採寸、切断する工程がむしろ主となっています。この1週間のうちにも、バスウッド薄材からアングルを付けて切り出す軒材先端87、屋根のトタン波板83といった単調作業がありましたが、そうした辛気臭さも結果としてちゃんと報われるからこそ、また手がけてみたくなるのです。

いまや日本の鉄道模型専門誌が軒並み、国粋主義、鎖国方針に読者を閉じ込めて、世界にはこんなに楽しく、しかもカッターナイフとピンセットと2,3の接着剤とピンバイス、という簡単な道具で食卓の上でさえ組める、という家庭的なキットが売られていることを知らせまいとしているのは、実に罪深いことですね。

この1週間はまた、「ひたすら上面を作る日々」でした。それまでは、とりあえず側面、であったのから替わって、屋根上を作っていったわけですが、このキット、屋上への階段塔屋、看板、鐘楼、給水塔、と盛りだくさんで、期待にたがわず、ランドマークとしての要件を満たすものになりました。

この6,7年、眠らせていた情念が呼び覚まされたように、立て続けにストラクチャーを組み立てましたが、そこで掴んだのは「ストラクチャーは屋根上の表現が大事」ということでした。

レイアウトというものは圧倒的に上から眺めることが多いものです。つまり、レイアウト上のストラクチャーでまず目に入るのは屋根の上、となります。

ですから、いくら側面が賑やかでも、屋根上が無表情な建物群で街区を構成すると、それはいくら実物通りといっても、眺めとしては間の抜けたものになってしまう。

すなわち、街場のレイアウトというのは、実は屋根上が勝負どころなのだ、と、これはD&GRNの“大門通り”を手掛けて気が付いたのです。なるほど、米国のHO界では、煙突、換気筒の類だけでも数社で何十種類というパーツが売られているわけで、改めて「さすがレイアウト文化の国」と感嘆しました。

今回のこのキットも、そういう角度で見ると、セリオスのストラクチャー・デザイナーとしての卓抜のほどが分りました。

ちなみに、私は、レイアウト・ビルダーとしての彼は、米国の模型界が絶賛するほどは評価していません。物の配置がせせこましく単調で、眺めに緩急が取れていないから、観賞する側の心が落ち着かない。そこに留まってしばし時を過ごしたい、という気が起こらない。そこがジョン・アレンの見せるゆとりと断然違うところ、とは感じています。

そのあたりで、実は、「クラム・ベイ」では、セリオスの製品を「セリオス的に使わない」、「セリオス以上に効果的に使って見せよう」という野心を抱いているのです。

ともあれ、私自身、米国型を選択して良かったな、と思える一つは、こうした多様な経験ができ豊富な知見が得られたことです。

当初は部材と型紙がぎっしり詰まって、作業後、元に収めるのに困るほどでした、このキットも、ある時点を境に、急速に中身が減ってきました。建物本体にはこのあと、窓のひさし、荷捌きデッキと出入り口へ階段、給水塔への配管と梯子。ボイラー用の高い煙突などが付きます。あとはほとんど、桟橋用の木材だけです。

いつの間にか、次第に出来てきています。