アメリカ型鉄道模型・連載コラム『モデルライフ』 Vol.72

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夏の通称“JAMコンベンション”に出品する予定で昨年から製作している、「クラム・ベイの船着場パート2」セクションですが、冬の内から少しずつ組んできた“いわし舟”がようやく完成しました。

正確には「イワシ運搬船」で、たぶん、沖合の漁場でイワシを掬い上げる漁船から、獲物を受け取って、港へ運んでくるものなのでしょう。網を巻き上げる設備とかは無く、簡素なものですから、「ようやく完成した」と胸を張るほどのものではありませんが‥船の構造を勉強していない身にはすべてに自信が持てず、説明書と図面が頼りなのですが、米国のクラフツマン・タイプのキットというのはディープになるほど、「一番迷うところ」が描かれていない傾向があり、「このくらいのキットに挑戦するなら、そこは自分で考えろ」ということなのでしょうが、「まあ、理屈的にはこれで正しいはず」というところに何とか持ち込んだ、というところでしょうか?

それにしても、私などはこうして極力キットに頼って、それをつなぎ合わせて一つの景色を創るわけですが、同じJAMの理事でもモジュール・レイアウト「川越鉄道」で有名な大野雅志氏は、景色を構成するストラクチャーのすべてをインターネットなどで集めた資料から設計し自作されるわけですから、その手間暇の掛けようには頭が下がります。

氏が数年前に完成された炭鉱と石炭桟橋のあるセクションでは、この「いわし舟」より遥かに複雑な石炭運搬船をフル・スクラッチで製作されており、それから見れば児戯のような小船に「完成した」もへちまもないものですが、それでも「本当に自分にできるんだろうか?」と半信半疑のうちに進めてきて、突然「これ以上の作業は無くなったから、ああ、出来たんだ!」という瞬間の満足感はあるものです。(これはいわゆる“ウォーターライン・モデル”なので、まだ、水中に透けて見える船底を自分で調達しなければなりませんが)

そもそも私は性格が自堕落なせいでしょう、糸とか線材をピンと張る、ということに全く自信がないのですが、それでもこうしてマストを中心に幾本かの「ステイ」とか「リギング」とかを張ってみると、船も好いもんだな、感じますね。(木綿糸を用いて、弛まないよう瞬間接着剤を滲み込ませてあります―これは川田輝氏のご教示)

彩色は最初から「よく漁港で見かける、白い船体がこすり付けたような赤錆が浮かせた姿」というのを考えていましたが、さて、いざそのウエザリングの段階に来ると、具体的に錆がどの部分に出てどの方向に拡がるのか、自分の観察も不確かです。

一体に、白と黄色はウエザリングがコントラスト強くなりがちで、下手にやると小汚くなってしまいます。「渋い」と「小汚い」の境が紙一重、という感じで、いつも手順や程度に大いに悩みます。

それでも最近大いに助けられているのは、「さかつうギャラリー」で販売するようになったフランス製アクリル塗料「シタデル」(CITADEL)の「WASHES」という透明色です。

このうち、「GRYPHONE SEPIA」「DEVLAN MUD」、「OGRYN FLESH」、「BADAB BLACK」という4色が私の愛用ですが、いずれもインクを薄めたような落ち着いた色合いで、品よく仕上がってくれます。

さて今夜はいよいよウエザリングに掛かろうという夕方、何気なしに夕刊を拡げましたら、東日本大震災の津波で八戸港から無人のまま流出した函館のイカ釣り漁船が1年以上、北太平洋を漂流した末、アラスカ南東沖に接近し、航路の障害として危険が現実になってきたので、米国の沿岸警備隊が機関砲でこれを銃撃、海没処分とした、という記事が目に入りました。ロイター発の空中写真がついていまして、その白い船体に赤錆が浮いているのが、まさに求めていたイメージでした。こういう偶然も一種の天啓なのでしょうか?「せめてもの供養」と、さっそく切り抜いて参考にさせてもらいました。

それにしても、1年以上、無人のまま来る日も来る日も、北の海をさまよい続けた、というのは、もし船に心があれば、ずいぶんと心細いことだったことでしょう。沈めてもらってやっと安心しているのではないでしょうか?あてども無く漂流を続けている、という姿はなんだか、震災後の政権を象徴しているようにも見えますね‥そんなことを考えながらウエザリングの筆を進めました。この船は「修繕のために造船所の岸壁に係留されている」という役どころですから、まあ、このくらい錆を浮かべていていいでしょう。

次は先日から取り掛かっているクレーン台船に本腰を入れるとしましょうか?背景にも取り掛かりたいし、わずか幅1.2mといっても、やることは一杯です。