アメリカ型鉄道模型・連載コラム『モデルライフ』 Vol.55

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今週は前半、『LB5』制作に向けての取材で大阪の福井恵一郎氏のVIP鉄道にお邪魔し、その前に宝塚に中尾豊氏をお訪ねしてきました。

中尾さんはTMS時代の永年に亘る細かい図面製作の後遺症らしい、という頚椎の故障に違和を感じておられるものの、お体そのものはお元気のご様子でした。

例の「レイアウトに完成なし」の名句ですが、先日、藤井良彦氏からはウォルト・ディズニーがアナハイムのディズニーランドのオープンニングでのスピーチの中で語った「ディズニーランドに完成なし」から山崎喜陽氏が発想したのでは、という説が出されました。

ところが先週、TMS特集で京都の藤波さんという天文学の博士が造った「月光鉄道」というレイアウトを中尾さんが取材した昭和29年の記事に、中尾さんご自身、この句を引用されているのを偶然見つけました。

昭和29年といえば、まだディズニーランドは影も形も無かったころです。

そこで今回、中尾さん御本人にその出所をお訊ねしてみましたところ、「あの当時はすでにモデラーの日常会話に使われていたと思うが、元はやはり山崎の創作ではなかったかと思う」とのことでした。

昭和20年代、TMS編集部では16番の普及はレイアウト製作へつなげて行きたい、という方針があったので、レイアウト・プランのコンテストなど盛んにやった中で、トラック・プランニングというのは、当初の要求を満足するように描き上げると、途端にまた欲が出てきて、そこが満たせないのが不満となる。結局その繰り返しになるので「レイアウト(・プラン)に完成なし、だね」という話になったあたりが起こりではなかったか、とのことでした。

「レイアウト普及のために考えた16番はおろか、Nゲージまでもが車輛中心になってしまったことは当時の理想から見れば非常に不本意」というお言葉も出て、「レイアウト材料がこれだけ豊富になったのにそれを活かせない雑誌の現状は困ったことだ」というところで意見が一致しました。

大阪旧市街のど真ん中、心斎橋にお住まいの福井恵一郎氏の「VIP鉄道」は現在日本で、全通以後最長寿を誇る大型レイアウトではないでしょうか?

福井さんはHOの大ベテラン(鉄道模型暦はほぼ70年に及ぶ)で、日本の米国型ファンには珍しく、東部から南部に掛けての鉄道をこよなく愛するモデラーです。

私も知遇をいただいたのが、「とれいん」創刊前後だったと記憶しますので、とにかく35年以上のお付合いですが、私が常々敬服するのは、そのレイアウトに掛ける不死鳥のごとき情熱です。

最初にお訪ねしたのが住吉時代の御宅で、すでに屋根裏に米国型大型蒸機が走りまわる、かなりの面積のレイアウトをお持ちで、その後、それをさらに抜本的に拡張されたものの、お住まいをお店のある心斎橋にビルを建築されるので、そちらへ移されることになって取り壊し。

多くの場合、ここで「レイアウトも一応卒業」となってしまいがちなのですが、「土一升‥」の心斎橋のビルにワンフロアの専用室を準備されて、引越しと同時に建設再開。

ところがこれが相当にかたちを成してきたところで、ご商売の繁盛で在庫スペースが必要となり、エレベーターのあるフロアを明け渡して、さらに1フロア上への全面移転を余儀なくされ‥かなり出来上がっていた新レイアウトを一旦、部分、部分、に切断して階上で再組立てするものの床の形が異なるので、線路プランも再考しなければならず‥結局福井さんは米国型大型蒸機が存分の走る大きさのレイアウトを4回新造したも同然の作業量をほとんどお一人でこなして、ついに現レイアウトを全通にこぎつけたのがかれこれ20年ほど前のことでした。

その当時、『とれいん』で取材させていただいたので、ご記憶の方もあると思います。

当時から長編成も走行が快調なレイアウトでしたが、ここ数年、ポイント部分の傷みを中心に更新工事が進められ、そして昨年、大きな転機を迎えました。

5月、福井さんがドライヴァー、私がナヴィゲーターで、福井さんのこよなく愛する中南部アパラチア地方、昔の鉄道名でいうとサザン鉄道、ノーフォーク・アンド・ウエスタン鉄道、チェサピーク・アンド・オハイオ鉄道のテリトリー、州名ですとヴァージニア、ノース・カロライナ、ウエスト・ヴァージニアのほぼ2週間走り回って、新緑風景を堪能してきました。

この旅から帰国後、福井さんのシーナリー更新工事が猛然と始まったのです。山々の木々は最近の製品がふんだんに使われて濃密かつ鮮やかになり、まさに新たな命を謳うがごとき新緑に、おそらく水面の全長では日本の個人レイアウトで随一を誇っていたものの、レジンの経年変化でひび割れていた大河は、川原を新造することで流れの幅を狭めながら、ターナーのアクア・シリーズで亀裂を修復して、昨年の旅でわれわれが見てきたアパラチアの5月が見事に再現されたのでした。

途中経過は福井さんお得意のDVD(これがまた8mm時代からアマチュア・コンテストで鳴らしたプロはだしの腕前)で見せていただいてきたものの、今回実際に拝見して、この1年余りの奮闘振りに息を呑む想いでした。

こうした大仕事へのエネルギッシュな挑戦では、東のSOOライン御園生信明氏と西のVIP鉄道福井さんはまさに双璧です。レイアウトは「完成なし」というより「生きている」という結び方がふさわしいのではないか、と、この活性振りを撮影しながら思いました。

あるいは造り手の気持ちの持ち様を如実に写す点で「生もの」と表現することもできるかもしれません。

おかげさまでレイアウトの魅力を満載したような写真が沢山撮れましたが、来年夏に刊行予定の『LB5』のお楽しみに取っておかねばなりませんので1枚だけ、お目に掛けます。日本ではほとんど人気の無い(福井さんと私は熱烈ファンですが)ノーフォーク・アンド・ウエスタンの魅力をご覧ください。