アメリカ型鉄道模型・連載コラム『モデルライフ』 Vol.51

_CO13562_s
最新、というか、ここ数年発売の製品を使った草植えの2箇所目は、ここはリニューアルではなく、新規の場所です。今年の春から造ってきた、プロスペクターズ・クリークの対岸、クレメンタイン村の入口、「クレメンタイン・カーター記念学校」の手前の丘、というと長たらしいですが、この通信でも今年何度か見ていただいてきた場所です。

ここは晩春から初夏の風情で、D&GRN沿線にしては緑たっぷり、土も湿り気を含んだ‥という表現をやってみたいと考えてきました。

4月ぐらいでしたか、天賞堂の2階に立ち寄った際、本来の用事は『LB4』の水の作例に使う材料を買い足しにいったと思うのですが、レイアウト用品売り場担当の中尾雄太郎氏(天賞堂で只一人、レイアウトのことが実体験から語れるスタッフです)が「こんなのも入ってますよ」と薦めてくれたのが独逸国はBUSCH(英語読みでは「ブッシュ」でしょうが、ドイツ語では何と発音するのでしょうか?私はいまだに知りません)製品で品番 HO 6043「WISE & WALD(ヴィーゼ・ウント・ヴァルト?)」というセットでした。

これは森に囲まれた池とまわりの草地が造れるだけのグランド・カヴァーの材料を一式詰め合わせたもので、砂利や長短数色の繊維状の草材料のほかに、プラスティック製の小菊、ルピナス、羊歯、葦、枯れ草の幹、着色済みのキノコ2種、といったものも含まれています。説明書の絵解きも楽しく、言葉が読めなくとも「なるほど、こうして作るのか」と納得させてくれます。BUSCH製品はこういうところ、ヨーロッパのレイアウト用品メーカーのなかで断然優れています。

ヨーロッパ製のグランド・カヴァー、アース・マテリアルの類は、日本では長い間、ファーラーがもっともポピュラーでしたが、私の好みでは色が派手過ぎて使いにくく、永らく敬遠してきましたが、それに比べるとBUSCHのものは色が落ち着いていて米国型や日本型にも応用できるので、私は贔屓にしています。

前にも書きましたが、私は「時間を掛けても不器用に自作するぐらいなら、売っているもので良いものはためらわずに利用して確実性を採る」主義なのと、こうして製品に出会うと、メーカーにそれを突きつけられ、「どうだ、お前にこれが使いこなせるか?」と問われている気になってしまい、「ならば使って見せてやろうじゃないか!」という挑戦意欲を湧かしてしまう、模型業界にとっては思う壺の性格で、こうした挑発的な製品にはつい手を出してしまいます。

このセットもパッケージを見ただけでも楽しそうで、買って帰る地下鉄の中から取り出しては眺め、使い方に思いを巡らしてしまいました。

早速使ってみたかったのですが、ちょうど『LB4』の撮影の大詰めから、そのままJAM「国際鉄道模型コンベンション」の準備に入ってしまい、一方D&GRNのレイアウト・ルームも室温が細かい作業に不向きの季節になってしまったので、基本となる土の表面、腐葉土的なマテリアルだけ固着して、それ以上は秋に持ち越すことにしました。(草むらを実感的に見せたければ、その隙間から見える表土をきちんと作ることが大事です。隙間から見える色の重層さによって草むら自体が奥行きを感じるものになります)

プラスティック製の花は、葉と花弁が別パーツになっていて、それを嵌め合わせる事で成型色のままでもそれらしい色になるのですが、どうしても香港フラワーのような、いかにも樹脂然として艶が出てしまうので、丹念に塗り分けることにしました。葦のような丈のある草と、大型の羊歯もそのままではいかにも作り物くさいので、冷たい灰緑を基調に、枯れたと想定する部分には茶を引っ掛けるように塗りました。

これがパーツを微温湯と中性洗剤で一応洗っても、まだアクリル塗料を弾くので、数回塗り重ねる辛抱を幾晩か重ねましたが、葉はグレーや茶を引っ掛けてウエザリングするなど、もう一手間掛けた甲斐有って、塗りあがってみると、やはり成型色からは格段の重みが出ました。

この間にウォルサーズの」カタログでBUSCHのページを眺めていたら、今度は品番 HO 1153の「KLEINTIER SET」(読み方解かりません。「クラインティエル」でしょうか?)という、ヘビ、カエル、トカゲ、ヤモリ、イモリ、サカナ、チョウチョウ、カナブン、ネズミ、ウサギ、リス、アロマジェロ、フクロウ、カラス、キツツキといった野山の小型動物のセット、というのがあるのを見つけてしまい、毒喰らわば‥と取り寄せてしまいました。で、これが全部未塗装です。

ヘビを毒蛇風に塗り分けるぐらいは何とかこなしましたが、蝶が大振りなのでアゲハにしようというのは、何度トライしても色が混じって蛾のような迷彩色になってしまい、とりあえずはブルーメタリック一色で我慢しました。

文字通り「わざわざ苦労を買い求めた」ようなものです。

そうはいっても、D&GRNと、もう35年向かい合ってきてみると、レイアウト製作においては、「面倒だな」と思っても、そこを我慢してもう一手間掛ける、ということが大事と、つくづく思います。何事も「掛けた一手間」は必ず報いてくれるものです。(そもそも、そう信じなければ、こんな辛気臭いことはやってられないじゃないですか!)

で、この1週間、チマチマ塗り揃えてきた小植物、小動物を木金土で、いよいよ予定箇所に展開しました。まず、底面積が比較的大きく、接着剤の粘度で固着まで姿勢を保ってくれそうなキノコから配置して、つぎは一面に直立する草です。

これは近年、Static Grassという分類で、欧米数社から出ている、細い着色繊維を5~12mm程度で切り揃えたもので、今回はBUSCHのセットに入っていた、緑、金色、紫の混合を使いました。列車の写真を日、米、欧で撮ってみて、それぞれ草むらで数時間も列車を待つうちに分かったのですが、変哲も無い草むらというのは、夏でも枯れ葉や、逆に新芽が混じって、決して単調な緑一色ではないのです。そこが田畑のような人工的な緑とちがうところです。

このステイティック・グラス(と読むのでしょうか?)を直立させるのに、これまた近年紹介された方法は「素材を帯電させて静電気で吊り上げる」というものです。

子供のころ、セルロイドの下敷きを洋服にこすっておいて、前の子の髪の毛を逆立てたいたずらの、あの原理です。

商品化はNOCH(ノッホ?ノッハ?ノック?ナック?ゲーテの読み方が?と同じ)が最初で、これは器具のサイズが大振りで日本人の体格にはちょっと扱いにくいのが難点でしたが、その後、Heki(ヘキ)から、もっとハンディーなものが出て、一番最近ではFALLER(ファーラー)から遂に9Vバッテリーで作動するトランス・レスのものが発売になりました。3社を比較すると、現時点では、秋葉原などでAC22V出力のトランスを別に買う必要はありますが、価格と作業性の二つの最小公倍数からみるとHeki製の「GrassHopper(グラス・ホッパー)」が最も手ごろかと思います。プロでもなければ、「草を直立させる」というのは、そう頻繁に必要となる作業ではありませんからね、価格の手ごろさも大事です。

それで私もHeki製で初めてやってみました。秋葉原のトランス屋で出力22V端子(入力はもちろん100V)のあるトランスを買ってきて、結線し、準備はOK。

まず草蒔きしたいエリアの中心に4cm程度の釘を1本打ち込み、これを器具本体から出ているクリップ・コードで咥えます。

周囲に木工ボンド水溶液を広めに垂らし、その濡れた状態で、上からコップ状のアプリケーターを通してステイティック・グラスをパラパラと落としていくと、ほとんどの草が直立したままボンド溶液に濡れた地面に降り立つのです。蒔き終わったところで電気を切っても、一度立った草が寝る、ということはありません。

ただ、コツとしては、電極の役目を果たす釘は地面にしっかり、ぐらつかないように打ち込む、というところのようです。体験してみて、「これが決め手だな」と理解しました。

これで一晩乾燥させ、翌晩からその草むらの中に小菊やルピナス、羊歯、昨年の枯れ草の残った芯、それに小動物を、木工ボンドを足許につけては配置していきました。

ルピナスには思い出があります。日本では春に園芸店に鉢植えが出ますが、あれは園芸種で小振りです。野性のものはヨーロッパと北米に自生して花茎は1mに達する大型種もあります。

1972年に約2ヶ月、平井憲太郎氏とヨーロッパ最後の蒸機を追って放浪しました。最初はハンブルクに入ってくる当時の東独の01形パシフィックの半流線改造機を追って10日近く同市の郊外をうろつきました。ハンブルクに入ったのが5月25日ごろでしたが、あたりはまだほとんど冬景色で、鉛色の空の下、野には一輪の花も見えない、肌寒く陰鬱な眺め、村の食堂では石炭ストーブが燃えていました。

それがハンブルクに滞在している、わずか1週間の間に一変したのです。いきなり陽光が溢れる日が続いたら、野や森で、一斉に新芽が動き始めて、草むらからは花があふれ出したのです。それはまさに交響曲「合唱」の最終楽章でコーラスが突然歓喜の歌声を上げる、あの急転そのものでした。そのとき、主役を務めたのが野性のルピナスだったのです。白やピンクや紫の、スイトピーのような小花がみっしり付いた花茎がニョキニョキと立ち上がって、風景を一転活力溢れるものにしてしまいました。

当時日本ではまだ一般化していない花でしたから、その威勢のよさにはびっくりしたものです。

それで「線路脇にルピナス」というのは是非再現してみたいと思ってきたのですが、今回インターネットで確認しましたら北米にも広く自生していて、花期も初夏まで長いし、BUSCH製品のような丈のも実在することが判りましたので、林の外縁に咲かせました。

日本では、レイアウトの製作記とか指導本ですと、「路盤を作って、線路を敷いて、シーナリーのベースを石膏で作る」までは解説しますが、そこから先は、ほとんどすべてが「あとは好みで適当にやりましょう」程度にしか書きません。どうしても「レイアウト=列車運転盤」というイメージが固定されていて、そこでも「車輛主体の鉄道模型」という概念から抜けられないのですね。シーナリーは「適当にやればよい」程度の存在にしか理解されていません。それでレイアウト作って、本当に面白いのでしょうか?

私は、レイアウトというものは「立体絵画」であり、「立体物語」である、と思っていますので、シーナリーにこそ、大自然の交響詩を、人間社会の絵巻を、語らせたいのです。列車はその中で狂言回しの役を務めるもので、主体はあくまでも景観であると‥

そうなると、5cm四方の中、10cm四方の中にどういう物語があるか、が大事になってきます。本当に、草むらから草むらへ、ですね。この草むらには今日毒キノコが出現。この草むらでは野ウサギのカップルが食事中。河原への斜面の日当たり場所では蛇が散歩中‥

ただ細密に作る、というこだわりだけで作ると、レイアウトは、ややすれば、観客を疲れさせるものとなります。リズムを取りながら、詩を書くように作ると、眺めは快く、また感動を見る人に残すようになるのではないか?

そこがジョージ・セリオスとジョン・アレンの決定的な違いではないか、と私は見るのですが‥前者はイラストレーター的細かさがテーマ=技法の人、後者は画家としてのエモーション=感性の人。

一度ざっと作って、後からまた戻ってきて、を繰り返して、次第に濃密にしていく。その都度、自分の感興も高まっていくのをおぼえます。このやり方は、結果として、リズムを取るには正解のような気がしています。

秋の夜長をいいことに、ちょっと、長話でしたね。