2013.4.4

アメリカ型鉄道模型・連載コラム『モデルライフ』 Vol.58

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毎年12月第2週は“オランダ・ツリー”(旧とれいんギャラリーでは「広葉樹セット」と呼んでいました。アメリカでは「スーパー・トゥリー」という商品名)の栽培者で「ミニ・ネイチャー」の海外販売代理人でもあるフレヴィー社のゲラルド・ニーヴェンヒュージー(オランダ語で姓の方はいまだに正確に発音できません)氏が来日します。メイン・ビジネスであるポテト農場が農閑期であることを利用して、12月は日本、1月は米国、2月はニュルンベルクのトイ・フェアーというのが彼の定例スケデュールになっています。毎年、「ミニ・ネイチャー」の新製品サンプルを持参し、日本総代理店である日本文化リサーチ+エリエイと翌年の展開を話し合い、その間に若干交流のあるカトーを訪問したり、私と買い物、小旅行を楽しみます。

今年は、米国でレイアウト用品を専門に売っている通販・卸業者で自社製品の開発にも熱心な「シーニック・エクスプレス」(Scenic Express)のジム・エルスター(Jim Elster)社長も日本で彼に合流しました。

ゲラルドより一足早く12月10日に到着したジムは、8月のJAM主催「国際鉄道模型コンベンション」を視察に訪れて以来、二度目の来日です。

「シーニック・エクスプレス」社は米国における「スーパー・トゥリー」と「シルフロー」(米国での「ミニ・ネイチャー」の商品名)彼らはいま、ヨーロッパ以外の市場が小さいドイツの「ヘキ」(Heki)社の世界展開に協力もしていて、今回はそちらの相談が主たる用件での来日でした。

米国と並んで鉄道模型の二大発信国の一方の雄であったドイツも若い世代の鉄道模型離れに加えて、メルクリン社の一事倒産による入門者用商品のブランクもあって、このところ市場が低迷しており、レイアウト用品メーカーもそのアオリを受けているそうですが、へキ社の現在のオーナーはまだ若いが取り分け意欲的で新製品も過去のヘキ製品のイメージから一転して高級志向になってきているので何とか応援したい、というのがジムとゲラルドの目下の課題です。

ヘキ製品も昨年から日本文化リサーチ+エリエイが日本の総代理店(というと大げさですが)になりましたが、正直今年1年はまだ手探り状態でした。そこでジムが、彼が考えたヘキ製品、さらに自社製品の効果的な使い方を直接伝授してくれる、というのが今回の来日の眼目でした。

NMRAナショナル・コンベンションのトレード・ショウをはじめ米国のモデル・トレイン・ショウで名物男といえば、筆頭に挙げられるのはまずバックマン副社長のリー・ライリー氏とこのジムでしょう。

二人とも会期中のほとんどを自分のブースに立って、通りかかる人を積極的に呼び止めては自社製品について熱っぽく語ります。その活発な姿はショウ全体の盛り上げ役にもなっている感さえあります。

ジムの場合は予めさまざまな演出まで用意して、シーナリー製作の実演をやって見せ、また観客にも体験させるのをオーナー自らが毎日繰り返すのですから、大変な体力と熱意ですが、「シーナリー作りのような地味な作業に興味を持たせるには、そういう熱い気分を共有させ、その場から材料を買って帰らせるのが一番だ」というのが彼の持論です。

彼の販売はそうしたホビー・ショウでの即売と通販、それに卸業務から成り立っていますが、通販でも「受注同日発送」をモットーにしているそうです。「モデラーがやる気になったら、すぐに必要なものを届けなければ、その熱意が冷めてしまう惧れも大きい。だから熱を冷まさないような業者の努力こそ着実な着工につながり、注文主たちのレイアウト製作は進行する。多くのレイアウト製作が着実に進行することで自分のビジネスも着実に伸びていく。いつか作ってみたいという仮需要だけでレイアウト用品を売ることには限界があるに決まっている」というのが彼の哲学です。

「手に入るまでに日数が掛かると、その間に熱が冷めてしまう」というのは、実にモデラーの心理を的確に捉えていますね。日本の鉄道模型業界でそこまで顧客心理を分析している人がいるでしょうか?大概の通販では「注文さえ来てしまえば安心してしまう」のが実情ではないかと思います。

で、私の事務所でも「手を加えてよいジオラマはないか?」というので用意すると、早速いくつかのヘキ新製品や自社製品を使っての新テクニックの実演をやって見せてくれました。「こういう場所の自然はこうなっている。だから、こういう風にするといかにもそれらしく見える」という理論を踏まえた彼の解説は確かに分かりやすいもので、私には十分同感できるところ、自分の従来のやり方が確認されたところが多々ありました。こういう実演をやりながらトレーラーを引いて、ミシシッピ以東を主に年間30以上のモデル・ショウを回っている彼には、レイアウト用品の業者、というより、まさに「レイアウト製作の伝道師」という肩書きがふさわしいような気がします。

1週間の滞在中、歴史や文化に触れるのが好き、という彼を案内して京都日帰り観光や箱根への日帰り温泉浴、浅草での買い物などに同行しつつ親交を深めました。カリフォルニアの大学で美術を学び、両親が始めたドール・ハウスのビジネスを兄が引き継いでいるのを一事手伝ったのち、自分は鉄道模型を主体にレイアウト、ジオラマの材料の専門業者という新たな挑戦を始めた、とのことで、カリフォルニアでのミュージシャンや服飾デザイン、紅海でのスクーバ・ダイビングのインストラクターなど多彩な経験も持つ彼のシーナリーに関する視点にはそうした豊かな経験に裏打ちされたものを移動中、拙い英語力ながら感じました。

「落ち葉は踏めばシャリシャリしたものだよね?ならばスポンジの粉で十分なのかい?」こういう感性が彼の製品開発や商品開拓のバックボーンにあるのです。

来年のJAMコンベンションにも来日することを考えているようで、もしかすると彼の実演を皆様もビックサイトでご覧になれるかもしれません。