アメリカ型鉄道模型・連載コラム『モデルライフ』 Vol.34






『LB4』のための撮影で、この半年、いままでに無かったぐらいのカット数、レイアウトの撮影をやりました。NIKON D700、次いでD7000に習熟するため、ということもありましたが、おかげで、この2,3週間、およそ2,000カットのコマの中から合格品を絞っていく作業の中で、レイアウト写真はどう撮ったらよいのか、やっと勘所が分かってきました。

ジョン・アレンのレイアウト写真の分析、というのは、以前からもやっていましたが、自分の撮った結果とつき合わせてみると、改めて、彼の撮影テクニック、マジックが見えてきて、「なるほど!」と、舌を巻き、レイアウト・ビルダーとしてばかりでなく、カメラマンとしての彼の偉大さも更に見せ付けられた思いがしています。

いま、私の本作りの作業場は、自宅から3kmほど離れた場所で、小畠由利子さんというデザイナーを相棒に、二人だけで仕事をしています。そこで造った割付つきの原稿データーをプレス・アイゼンバーンに渡して印刷し、販売してもらう、という形態で、いわば下請けの編集プロダクションです。

彼女はもともと、うちの家内と同様、私の父の手描き呉服製作の弟子で、そちらの道でも優秀な作家ですが、いまや手描き染色の高級呉服など、絶滅状態に近くなったため、その構図の取り方の確かさを見込んで、写真を中心とした私の本のページ・デザインを任せています。デジタル編集も独学で覚えた、という勉強家でもあります。

「西尾克三郎ライカ写真全集」のページ・デザインは歴代3人の女性が手掛けています。これが揃って女子美術大学の卒業生。アナログ編集の初代が小田恵子さん。彼女は洋画出身で、D&GRNのほぼ30mに亘る背景画もほとんど彼女の作です。(一部家内が改修)。2代目がうちの家内で、デジタル編集に切り替わってからが小畠さん。彼女は日本画が専攻でした。

3人とも、父の手描き友禅染の弟子ですが、父は採用に当ってデッサン力を非常に重視していましたので、写真のトリミングや大小のバランスも、私がなまじ細かく指示するより、「任せて安心」なわけです。

数日中に店頭に出る、小寺康正氏の「国鉄タンク機関車」の上巻も小畠さんの仕事ですから国鉄蒸機がお好きの方は是非、写真のトリミング(多くは正方形の6x6判から上下をカットしている)の無駄の無さ、画としてのバランスの良さにも注目していただきたい、と思います。そのあたりは、数多くある、鉄道ファンの自費出版もの、同好者による編集ものと写真の扱いの丁寧さが断然違うと思います。

私たち二人の通常の仕事運びは、まず小畠さんがその本に使う可能性のある写真のすべてを粗データーとしてパソコンに取り込んで、ベタ焼き状の画像サンプル、いわばカタログを作ってくれます。

その中から、私が使いたい写真を選び、ストーリー立てをして、ページごとの配列や大小関係を決め、文字を入れたい場所も大まかに示した、貼り絵状の通称「ラフ・プラン」を造り、彼女がそれに基づいて写真をトリミングし、ページ単位にデザインした実寸見本を作ります。

それを再び私が見て、写真的に物足らない部分の追加や文字原稿の構想を検討します。そこから彼女は画の微調整、私は原稿書きを進めながら、見本ページを段々最終版に仕上げていくわけで、『LB』や『アメリカーナ』のように模型を扱うものでは、その間に「割り付けてみたら平板で面白くない写真」とか「撮影アングルが中途半端な写真」の再撮影、ページのメリハリが欠けている時には、写真の追加撮影などもやります。

ちょうど現在が『LB4』においての、その段階です。撮影もD&GRNと作業場の両方でやっていますので、毎日カメラや三脚、メモリーカードが自転車で行ったり来たりしています。その辺は相変わらずアナログです。画像も一度に重いデーターを沢山移動となると、気取ってメールで送ろうとするより、自転車飛ばした方がよほど早く着いてしまうのです。

今日の写真は、昨晩撮影した、そんな『LB4』用の追加写真、D700やD7000のレンズでは画角が狭くて撮影できず、コンパクトデジカメのリコー・カプリオのワイドレンズを活かして写したものです。皆様には特別に拡大版でご覧に入れます。

例のD&GRNハドレイヴィル市の歓楽街「ビッグゲイト・アヴェニュー(大門通り)」。その中ほどにある4軒店の向かって右端は「ビキニ・バー」です。入口左右にはビキニ姿の女の子が客引きに出ていますが、紅灯の点る店内は、実はショータイムの真っ盛り。この店の花形、ドイツ系で金髪のエレーナ嬢(と、勝手に名前を付けた)の艶技に歓声が飛び交っています‥というのが1枚目。

「頭に黒いシルクハットを載せた以外、白い肌に一糸もまとわず、右手に黒いパンティーをさげたストリッパー嬢」は店内奥深くに居ますが、実は彼女こそが、この「大門通り」構想のキーパーソンでした。

10年近く前でしたか、ドイツのプライザー社が、他に何の脈絡もなく、この人形を単体で発売した時、「D&GRNのどこかに、こういう娘は働くナイトクラブを造れないか?」と考えたのが、同類の人形集めとストラクチャー探しの連鎖になって、ついに2.2mの「場末近くの歓楽街」に発展したのでした。

そして、この「大門通り」。すでに皆様には何度かその外観はご覧に入れていますが、実はほとんどの店舗、内装も楽しめるよう、室内照明はもとより、床や仕切り壁までは施工済みにしてあるのです。

そのうち、窓の大きい何軒かはすでに「営業中」で椅子テーブル、従業員、客、壁のポスターなども配置されています。

「ビキニ・バー」は入口の両脇と上部に細長い窓があるだけですが、そういう秘密めかした店構えこそ、「エレーナ嬢」の出演にふさわしい場所ではありませんか!

というわけで、この店は最初から「紅灯」と決め、内壁も赤くしました。照明のチップLEDも赤にしました。ただ、照明も赤くしますと、せっかくの「白い肌」も赤く見えてしまいます。

そこで、彼女を厚さ10mm、30mm径のアクリル円盤に同径のアクリル・ミラーを貼った舞台の上に立たせ、頭上にはパイプの中に納めた電球色チップLEDを配して、全身にスポットライトを浴びるようにしました。足許まで行った光はミラーで反射して、下からも彼女の下半身を照らし上げ、光に白い裸身が包まれて紅灯の中に浮かび上がるよう考えたわけですが、われながら実に計算どおりに行きました。

左隣は「タトゥー・ションプ」、彫り物師の店です。これも退廃的な歓楽街には似つかわしいでしょう。

「彫り物」というと、なにか淫靡な、妖しい世界のイメージがありますが、一方、彫り物師の親方というのは、人体をキャンバスにしか見ない怜悧で偏屈な姿を想像するじゃないですか。そういうイメージのためには、店構えは古臭く、無機質な冷たさが漂っているのが似合うか、と、照明も内装の色も隣のビキニ・バーと対照的にしました。

窓越し、カーテンの上から覗く店内の寝台には、すでに柔肌一面に花柄を散らされた娘が二人並んでいます‥さしも多品種を誇るプライザー、メルテンにもタトゥーを入れた人形はまだありません。プライザーの「ヌード・日光浴」に、面相筆の新品で描きましたよ。

鉄道模型にタトゥーを入れた人形まで拵えたというのはちょっと無いんじゃないか、と思うのですが、肌に入って浮き出た、彫り物の色というのは表現が難しいですね。ちょっと灰色掛かったようにも見えるものです。ただ、地味にしてしまうと窓越しでは目立たない。このあたりは演出も必要です。

最近、北欧のヌーディスト・ビーチではボディー・ペインティングが流行っているようですから、「ボディー・ペインティングも施してくれる店」ということにしましょうか?

でも、こうして、窓越しに内部、特に人の姿を見せるのは、位置決めが結構難しいです。位置や向きが1mmずれたら、もう、仕草や表情が見えなくなってしまいます。

屋根を外したり、逆にずらした外壁から窓位置を想像したりしながら、0.3mmぐらいずつ小刻みに動かしてベスト・ポジションを探すのは根気の要る業ですが、私は最近、車輌の細かいことにこだわるよりも、こういうくすぐりを考えるのが面白くて仕方なくなっています。