2011.8.20

アメリカ型鉄道模型・連載コラム『モデルライフ』 Vol.14

アメリカ型鉄道模型・連載コラム『モデルライフ』 Vol.14

レイアウト製作に含まれる作業のほとんどは、私にとって快く、胸躍るものですが、たった一つ、気を重くさせられるのが「配線」です。何が嫌いといって、配線ほど、うっとおしく、やっかいに思える仕事はありません。

シーナリーやストラクチャーなら「自分にしては、まあ、上手くできたかな?」という慰めがありますが、配線仕事にはそれがありません。

「間違ったか、間違わなかったか?」「Yes or no」「うまく出来て当たり前」の世界であって、きちんと通電されなければ、「それが意見の総仕舞い」。

そこには愛嬌とか情念というものの入り込む余地が全く無い。どんなに時間を掛けようと、苦心しようと、電気が流れなければ全く無駄骨に終わります。数学と同じで、問答無用、勝てば官軍、トコトン無愛想で無慈悲な世界です。

そこに、慰めとか愛嬌の無い世界というのは、ほとほと疲れますね。

山崎喜陽氏と二人きりで会って話をするようになって何回目かのことでした。氏が突然、「ところで君は電気のことは強いのかい?」と訊ねてこられました。

「いやー、さっぱりダメです。乾電池と電球をつないで、間にオンオフのスイッチを入れるぐらいがセイゼイです」と申し上げると、氏はパッと顔を輝かされて。「君もそうか!実は僕もなんだよ!ハハハ!」といわれたのでした。二人揃って「電気音痴」。

これがTMSにも「とれいん」にも、電気の記事が滅多に載らなかった理由の真相です。

LED=発光ダイオードがストラクチャーの照明として使いやすくなったのは、ちょうどこの3年ほどです。チップLEDの登場に加えて、私のようなハンダ不器用には、「さかつうギャラリー」がその「爪の垢」ほどの面積の接点に「リード線ハンダ済み」を発売してくれ、さらに昨年から「+側に直列に入れるだけで12VDC通電OK」となる「定電流ダイオード」も販売されるようになりました。

これで、私にもなんとかチップLEDが使いこなせるようになりました。

チップLEDの登場で、従来LEDの泣き所であった照射角の狭さも、麦粒球にそこそこ近いところまで改善されてました。大きさでは当初の「5mmタイプ」の何十分の一なのに、はるかに広い範囲に光がまわり、また、明るく感じます。

ところが、これが小さい。発光表面1mmx1.6mm、厚さ1.2mmです。HOならば「電気の傘」の中で電球が点ってしまいます。

ここまで小さいということは、いままではダミーで諦めていた、ちょっとした軒先燈も看板の照明も点燈できるようになった、ということです。

と、なると、あれもこれも点燈したくなる。また、一つ点燈にすると、理屈上「これも点燈しなければおかしいではないか!」「ここだけ暗いはずがない」‥と、欲と理屈のドミノ倒しに陥って、セクションの幅はたった17.5cm、といっても、LEDの個数は増えるばかり。(これをD&GRNの工事現場では「さかつうの餌食」と呼んでいます)

ところが、これがまた、一つの定電流ダイオードに対して並列につないだLEDの個数が少しでも多かったり、色の異なるLEDを一つの定電流ダイオードにまとめると、電球のように徐々に暗くなってしまうのではなく、愛嬌が無いくらいパタッと点かない。それをまた解いて一からやり直す。しかも「もしかしてLED焼いてしまったか?」とドキドキしながら、です。

わたしのような電気音痴にとって、配線のプラスマイナスを舞い違えないようにするだけでも大変なのに、さらに辛いのは、LEDというのは配線を間違えたり、うっかり瞬間でもショートさせたりすると、「パッと輝いたが最期」あとは、押しても引いても永遠に無言、線香花火よりあっけなく一巻の終わりだからです。

それを、さかつう価格1個525円なりのチップLED電球色を3個も並列にしたのででも、やってしまったら、小遣いに乏しい私の昼飯代何日か分、行きつけのスーパーの安売りバナナなら75本分がすっ飛びます。ですから通電の瞬間はまさに薄氷を踏む思い、地雷原に足を踏み入れる思いで、心臓や胃には良くありません。

まあ、そういう艱難辛苦を乗り越えて、金曜の深更、ようやく通りの左半分のブロックが、考えたところまで点燈しました。点いてみれば、明かりというものは何がしかの癒しにはなるものです。

これで来週は、通りの右半分の工事が待っています。左は一昨年、三分の一までは工事してあったのに対して、こちらは全く未着手、しかも左半分より20cm長く、さらには、2階建てが3軒もあって、おまけに公衆電話のブースまである、という具合。

やる前から溜息が出ますが、放っておいて、電線が自然に延びるわけではなし。
たった数枚の夜景写真を本に載せるために、われながら、ご苦労なことです。

(植物の蔓のように、水さえやれば、+-へ向かって自力で延びる電線を発明したら、まちがいなくノーベル模型賞ですね)