週刊 汽車道楽 平成28年12月4日号



◇ 「魚介加工場」のその後-「クラム・ベイ Part 6」より
2冊目の「遺言写真集」となる『白秋の信号機』は制作作業がすべて自分の手元を離れましたので、当面は第2回「鉄道模型芸術祭」への出品物製作に没頭できる環境となりましたが、会期まで、残り3ヶ月余りとなり、その間に年賀状の作成、投函などに要する日数などで1週間は差し引いて考えなければなりませんので、俄かに現実感が涌いてきています。

折から東急ハンズが18日までの期間中、「ハンズクラブ・ポイント」10倍キャンペーンに、さらに「買い上げ10,000円ごとに100ポイントプレゼント」とのことですので、「クラム・ベイPart 6」の材木を買うなら、この間ですね。「クラム・ベイ」に使用の木材、アクリル板は蓋まで入れると、切断加工費込みで毎回ほぼ3万円程度になります。そのほかに高透明エポキシが結構高価でやはり3万円弱、掛かります。

ついでながら、ストラクチャー・キットと人形でほぼ10万円。電気関係なども含めると、「総額20万円弱」が「クラム・ベイ」1台の製作予算、というところです。

それでも昨今の車輛関連の製品価格に較べるとレイアウトは低予算で楽しめます。(だから、多くの模型店がレイアウト関連商品を敬遠するのですが)車輛関連ですと、いまの時代、「ロストワックス・パーツ一握り」はとても1万円では済みませんからね。台車も床下パーツもしかり、です。(それでも米国型は安いですよ。いまや日本型の1/2~1/3です…といって誘惑する)

「クラム・ベイ」1個当たりの面積から類推すると、たたみ1枚分のレイアウトの総材料費は、高級市販品を相当ふんだんに使っても30~40万円でしょう。で、私自身や周囲のレイアウト・ビルダー仲間の実績を製作所要年数で割ってみると、無理なく完成できる面積の限界、というのは、ほぼ「1人1年1畳」ですね。これが面白いことに、ある程度造りこんだレイアウトでは、Nでも16番でもだいたい同じのようです。

さて「クラム・ベイPart 6」の実製作ですが、キーとなるファイン・スケール社の「魚介加工場」は全壁面の彩色と窓枠装着までが済んだところです。

色の決定に当たっては、過去の「クラム・ベイ」モジュールで使っていないものを、と考えてきまして「煮〆たような黄色」というのを希望しました。

しかし「黄」というのは、「どこでもあるのにいざとなると出すのに難しい色」の一つです。生では周囲から浮いてしまうし、くすませようとすると小汚くなりがちで、「渋くて、かつ、すっきりした黄色」というのはなかなか出しにくい。

今回出したかったのは、「木造建物に塗られ、潮風に晒され続けて、ひび割れの下から地肌も下塗り塗料も露出してきてしまっている黄色」というところで、レイアウトの情景がPart 5で一旦賑やかに盛り上がったのが、再び場末に戻っていく、その象徴としての色彩表現に挑戦してみようと考えました。

まず「濁りのない黄色」をベースにしませんと、ウエザリングの按配いかんではたちまち「小汚く」転落しますので、黄色系では濁りの出やすいアクリル塗料は止め、思い切って油絵具を使ってみました。作業を早めるのに「シッカチーフ」という乾燥促進剤をたっぷり練り込みました。「シッカチーフ」は注意書きに「混ぜすぎるとひび割れするおそれがある」としてありますが、今回の場合、「ひび割れ大歓迎」ですので、心配なく使いました。(結果的に、シッカチーフ自体の影響でのひび割れは出ませんでした)

油絵具が充分乾いたところで、上掛けに、リキテックスの透明アクリルで「トランスペアレント ロー シェンナー」と「トランスペアレント バーント アンバー」をタミヤ「X20A」で薄く伸ばしたものを強弱つけながら引きました。これで、やや飴色掛かる「カラメル・タッチ(?)」が出ました。

窓枠は、通常のファイン・スケール社のキットに比べ個数が多く、そのキャステイングが、窓枠の外側内側でガラスに段差を付けて貼る構造になっているため、窓枠一枚ごとに正確に合わせて透明プラ版を切り出していかねばならず、これまた、二晩に亘っての辛気臭い作業となりましたが、展示した際の窓ガラスの反射というのは、結構アクセントになるので、ていねいにやりました。

キットの説明書の指示には「窓枠開口部はブラインドの下からレースのカーテンが風に吸い出されている様をティッシュ・ペーパーの小片で表現しろ」とありましたので、実行してみましたところ、たしかにそれだけで、潮風を感じさせるものとなりました。

プロデューサーのジョージ・セリオスは大西洋岸のマサチューセッツ在住ですから、こうした「海辺の表現」には長けています。

米国のこうした木製キットはたいがい、個人規模のアマチュア・モデラー出身者が経営と同時に製品プロデュースもおこなっているので、それぞれが編み出したテクニックを説明書に盛り込んでいます。ですからいくつものメーカーの製品の組立を経験してみると、おのずと、そうしたテクニシャンの秘伝(?)を学ぶことができます。私は、「趣味」で一番楽しいのは、そうした勉強ができることだと思っています。「こんな割り箸の束みたいなキットがこんな値段を取るの!」と感じてしまうのではなく「教えを請う授業料」と考えれば、「価値」は理解できるでしょう。そこがプラスティック製品と一番違うところです。いわば「応用力を養う道場」ですね。

これで、「側面」はほぼ終わりで、これからの工程は「屋根と屋上」に移ります。ここから先に、「看板」、「給水タンク」「鐘楼」など、並みのストラクチャー1戸分ほどの工作が待っています。「12月一杯掛かるだろうし、12月一杯でやり終えないと、あとが厳しいな」という10月段階での観測はほぼ当たった感じです。

アメリカ型鉄道模型・連載コラム『モデルライフ』 Vol.83

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地上部分が一応まとまった「クラム・ベイの船着場 Part2」を造船所構内反対側からご覧に入れましょう。

繊細で、レーザーカットのランナーから取り外すのも怖かった足場の脚部ですが、こうして横木を渡すと、嘘のように丈夫になりました。キットは最後まで行ってみないと真価は分かりません。この異色のストラクチャー一つが登場したことで、セクション全体がぐっと港湾らしくなりました。まさに、「レイアウトのストーリーを語るものはストラクチャーである」を如実に示しています。

もう一つ、心配していた未舗装道路と石畳の接合部も段差の均しを丹念にやったので、われながら自然な感じに行けたと思います。未舗装道路面のわだちは、例によって細かい砂をボンド水で固めたあと、線香立ての桐灰を指先で擦り込みました。仏壇でご先祖様に詫びて一つまみ失敬してきて、茶漉しで粒を揃えました。

今は神田で呉服問屋の社長に納まっている桟敷正一朗氏が学生時代に発見したテクニックですが、埃っぽい田舎道の表現に、これに勝るものはありません。

踏切手前の線路間と線路脇の、丈の短い草地はミニネイチャーの「バッファロー・グラス」を先に植えておいて、ある程度のメリハリを付けてから、これも前にクレメンタイン支線の丘の草地でレポートした、へキ社の「静電草蒔き器」で、ノッホ者やウッドランド・シーニック社の短繊維草材を取り混ぜたものを蒔いてみました。

これで面白かったのは、蒔いた当日、翌日より、3日目の方が、草がきちんと立ってきたことでした。あたかも実物の草が植えてから数日立ってシャンとするようで、草と草の間の隙間も実感的になりました。

こうした発見の楽しさは実地にやってみる者の特権です。

さて、次は、先日来ストップしているクレーン船の組立てですね。いよいよカレンダーとの勝負です。この高揚感がたまりません。